カテーテル手術に向けて
今回は全身麻酔での手術となるため、事前の検査も念入りに行われました。通常の血液検査や肺活量の検査に加えて、麻酔科の先生の診察や、歯のぐらつきがないかといったチェックまであり、一段と細かい準備が必要でした。
入院中に読むための本も数冊購入し、1週間の入院ということもあって荷物も少し多めに。
でも、何よりも大切だったのは――
「強い気持ち」
「先生を信じる気持ち」
「病院への感謝の気持ち」
この3つの気持ちをしっかり持って、私は入院当日を迎えました。
入院初日(手術前日)
この日は、手術前日の入院日でした。
午前11時から、先生による手術の説明を両親と一緒に受けました。
その後は、体温・血圧測定、身長・体重の計測などが行われましたが、それ以外は特に制限もなく、シャワーを浴びることもでき、普段通りに食事もとれました。
ナチュラルローソンにもちょっと寄って、「本当に明日、手術があるのかな?」と少し不思議な気持ちになったのを覚えています。
夕方には、先生が病室に様子を見に来てくれて、激励の言葉をかけてくださいました。
そのとき、「より安全に行うため、今回は左右両方の鼠径部からカテーテルを通します」とサラッと伝えられました。
通常は片側からだけなので、正直びっくりして一瞬ひるみましたが、ここはもう先生を信じるしかありません。
むしろ、そのサラッとした先生の説明に、「絶対に安全第一でやってくれる選択だし、あんなにサラッとしているんだから、特別なことじゃないんだ」と思えたことで、不安はすっと消えていきました。
夜になると、だんだんと緊張感が高まってきます。
手術後は病室には戻らず、そのまま集中治療室に入るため、必要な荷物をあらかじめ準備しておく必要がありました。
タオル、下着、ティッシュ、歯ブラシなどに名前を書いて、袋にまとめて、すぐ持ち出せるようにします。
そして、20時には点滴がスタート。
「ああ、もう逃げられないな」と覚悟を決めた瞬間でした。
そんな時、心の中で何度も繰り返したのは、やっぱりこの3つの気持ち――
「強い気持ち」「先生を信じる気持ち」「病院への感謝の気持ち」
この3点セットが、私の背中を押してくれました。
いよいよ手術当日〜コイル塞栓術〜
朝6時に起床しました。
手術室へは8時30分に入室予定。
体温や血圧、身長・体重の測定を済ませ、手術に持って行くものの最終確認を行いました。
ティッシュやストロー付きのコップ、前開きのパジャマ、下着、タオル、マスクなどを準備し、ベッドでその時を静かに待ちました。
やがて時間となり、手術室へ向かいました。
手術室に到着し、ひんやりとした空気の中、手術台に上がり、頭部を中心に固定されると、いよいよという気持ちが高まってきます。
このタイミングで先生に「強い気持ち」「先生を信じる気持ち」「病院への感謝の気持ち」「気持ちの3点セットを持ってきました」と伝えました。もう私にできることは何もなく、あとは先生とチームの皆さんを信じるだけでした。
手術は全身麻酔で行われ、気がついた時にはすべてが終わっていました。呼吸を補助する管を外してもらい、名前を呼ばれた記憶はうっすらとあるものの、ほとんど覚えていません。その後、集中治療室に移動し、まだぼんやりしているうちに両親が来てくれました。たしか「お疲れさま」と声をかけてくれた気がしますが、正直なところ、そのあたりの記憶は曖昧です。
後から両親に聞いた話によると、当初は3時間の予定だった手術が、実際には4時間半ほどかかったそうです。思ったよりも長引いたことで、両親は「手術終了の連絡を忘れられたのでは…」と不安になり、ナースステーションに様子を見に行ったとか。昼食も取らずに、ただ私の手術が終わるのを待っていてくれたことを知り、高齢の両親に負担をかけて申し訳ないなぁという気持ちになりました。
予定より大幅に長引き、4時間半ものあいだ手術を執刀してくださった先生には、ただただ頭が下がる思いです。
ひとつひとつ丁寧に確認しながら、安全に手術を進めてくださったのでしょう。
手術室にいる間、私は意識がなく何もわかりませんでしたが、その時間、先生は集中力を切らすことなく向き合い続けてくださったのだと思うと、胸が熱くなります。
意識のない私の代わりに、たくさんの方が力を尽くしてくださっていたことを思うと、あの時間は、ただ「眠っていた」わけではなく、たくさんの優しさと技術に包まれていたのだと気づかされます。
支えてくださった先生、看護師さん、技師さん、関わってくださったすべての皆さんに、心からの感謝を伝えたいです。
集中治療室では翌朝までベッド上での安静が続きました。看護師さんが急いで先輩らしき方を呼ぶ場面が数回あり、「今、私の血圧が高いのかな?」とぼんやり思いながらも、不思議と不安にはなりませんでした。病院の中で、しっかりと見守ってもらえているという安心感があったからだと思います。
食事は翌朝までできず、水分のみの摂取でしたが、不思議と「お腹がすいた」と感じることはありませんでした。身体はまだ完全に眠っているような、そんな感覚でした。
覚悟していた術後の痛み
おかげさまで順調に経過し、予定通り翌朝に病棟へ戻ることができました。
私は「手術をした日の夜は激痛に襲われる」と思い込んでいて、それなりに覚悟をしていたのですが、実際はまったく痛みがありませんでした。吐き気もなく、本当に順調な回復ぶりに、自分でも驚くほどでした。
朝食後には、術後の検査として採血・MRI・レントゲンを受けました。
さすがに自由に出歩くことは許されず、「ナチュラルローソンへ行きたいな」と思っても、それはもちろん禁止。病室から一番近いトイレには一人で行っても良いけれど、それ以外の移動は看護師さんと一緒でないとダメとのことで、「ああ、術後なんだな」とあらためて実感しました。
先生に、「手術した日の夜はめちゃくちゃ痛いと覚悟していたのに、まったく痛くありませんでした。なぜですか?」と尋ねたところ、「血管には痛みを感じる神経がないんですよ」とのお返事。
この説明には本当に驚きました。
カテーテルを通した部分の傷口もとても小さく、そこも痛みを感じることはありませんでした。
身体の中で起きた大きな出来事に対して、外側はあまりにも静かだったことが、とても不思議で印象に残っています。
手術後4日目そして退院日
手術後4日目ともなると、体調は着実に回復へと向かいます。
病院での生活にも慣れ、無理のない範囲で日常動作を取り戻していく時期に入ります。
朝は6時に起床。
体温や血圧は看護師さんが病室で測定してくれます。傷口のチェックもしてくれて、異常ないことを確認。
身長・体重の測定は、決められた場所まで移動して行いました。念のため、ゆっくりゆっくり、転ばないように気をつけながら向かいました。
採血が予定されていましたが、その他は比較的穏やかな時間を過ごしました。
徐々に「日常の感覚」を取り戻せることで、回復への実感が湧いてきます。
ちなみに、病棟では21時に共用部の消灯が始まり、22時には病室全体が完全消灯となります。
ベッド周りの読書灯もこの時間には消すルールなので、規則正しい生活が自然と身につきました。
そして、念願の退院日。
この日も6時に起床し、いつも通りの体調チェック(体温・血圧・体重)から始まりました。
先生から術後の経過に関する説明があり、「経過は良好で、予定通り退院可能」との診断を受けた時は、安心と同時に一段落した気持ちになりました。
その後は、
・退院に必要な書類の受領
・処方薬の受け取り
・2週間後の外来予約の手続き
といった事務手続きを済ませ、予定通り午前中に退院となりました。